大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸家庭裁判所 昭和53年(少)4258号 決定

少年 G・Z(昭三七・三・三〇生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

本件戻し収容申請を却下する。

理由

(非行事実)

少年は、

第1  公安委員会の運転免許を受けないで、

(1)  昭和五二年一二月二三日午後八時一五分ころ、兵庫県伊丹市○○×丁目××の××付近道路において、

(2)  同五三年二月二三日午後二時三五分ころ、同市○○×丁目×の××付近道路において、

いずれも原動機付自転車を運転した

第2

(1)  A(一四歳)と共謀のうえ、同五三年三月一九日午前三時ころ、伊丹市○○字○○×番地○○寮横空地において、K所有の普通乗用自動車一台(時価約六〇万円相当)を窃取した。

(2)  公安委員会の運転免許を受けないで、同日午前五時二五分ころ、大阪府豊中市○○町×丁目×番××号付近道路において、前記普通乗用自動車を運転した

(3)  (2)の日時に、片側車道幅員六・一メートルの(2)の道路において、前記自動車を北から南に向け運転進行していたのであるが、自動車の運転者としては、制限速度(同所は時速四〇キロメートル)を守るなど安全な速度で、ハンドル操作を確実にしかつ前方を注視して進行しなければならない注意義務があるのに、これを怠り、時速約八〇キロメートルで、しかも車内のヒータースイッチを左手で切ろうとして右手のみでハンドル操作をし、かつ前方注視をしないまま進行したため、自車が左前方に暴走して道路左端に駐車中のL所有の普通乗用自動車後部に自車前部を追突させて被害車両後部ボデイーなどに修理費約三万六、〇〇〇円を要する損害を与え、もつてハンドル操作を確実にし、かつ他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなかつた

第3  B(一六歳)・C(一八歳)・D(一七歳)と共謀のうえ、同五三年一〇月二三日午前二時五〇分ころ、伊丹市○○×丁目×番×号○○モータープール内において、M所有の普通乗用自動車内から、同人所有の電気かみそり一個(時価約五、〇〇〇円相当)を窃取した

ものである。

(法令の適用)

刑法六〇条・二三五条(第2(1)および第3の窃盗について)

道路交通法六四条・一一八条一項一号(第1(1)(2)および第2(2)の無免許運転について)

道路交通法七〇条・一一九条一項九号(第2(3)の安全運転義務違反について)

(戻し収容申請の要旨)

少年は、昭和五二年八月一五日近畿地方更生保護委員会の決定により宇治少年院から仮退院を許されて、肩書住居地の養父実母のもとに帰住し、現在神戸保護観察所の保護観察下にあるものであるが、同保護観察所の指導監督に服さず、仮退院に際し誓約した遵守事項に違背して、

(1)  非行事実欄第1(1)のとおり無免許運転した(法定遵守事項二号・特別遵守事項五号違反)

(2)  同欄第1(2)のとおり無免許運転した(同上違反)

(3)  同欄第2(1)のとおり窃取した(法定遵守事項二号違反)

(4)  昭和五二年一一月二一日から同月二二日まで、同五三年六月七日から同月一四日まで、同月二四日から同月二七日まで、同年七月一一日から同月一六日まで、同月同日から引致状を執行された同月二九日までの五回にわたつて家出を繰り返した(法定遵守事項一号前段・特別遵守事項三号違反)

(5)  Aと共謀して窃盗を犯した外、シンナー吸引グループと行動を共にするなど不良交友を続けた(法定遵守事項三号・特別遵守事項四号違反)

(6)  両親、担当保護司および保護観察官の再三にわたる助言・注意・指示・指導を受けながら、これらに従わず身勝手な行動を繰り返していた(特別遵守事項六号違反)

ものである。

以上のとおりであり、少年は、仮退院後しばらくの間は家業(新聞販売業および消火器販売業)に従事するなど真面目に働いていたが、昭和五二年一一月二一日に家出して以降、次第に生活が乱れ、家出・再非行を繰り返すに至り、引致状を執行されたところには殆ど家庭に寄りつかず、少年院に送致される以前と同様の生活に戻つている。

このように、少年には更生の意欲が認められず、保護観察官や担当保護司の指導にも全く従わない現状であり、もはや保護観察による処遇によつては少年の更生は期待できず、少年を少年院に戻して収容すべき旨の申請をする次第である。

(処遇の理由および本件申請についての判断)

1  本件申請中「少年を少年院に戻して収容すべき」旨の結論部分の外は、本件申請の理由は全て認められる。

2  そして当裁判所も少年を少年院に戻して収容すべきではないかとも考えたが、一方養父が少年の引取りを希望し、不良交友を断つため少年を居住地の伊丹から離れさすことを誓つたことや養父の引取希望をいれて少年を両親の許に帰すことが父子関係を好転させる一助になればとの期待もあつて、昭和五三年八月二二日の審判で、(1)盗み・無免許運転・シンナー遊びなどは絶対しないこと、(2)家出・外泊・真夜中に出歩くなどは絶対にしないこと、(3)悪い友達とはつき合わないこと、(4)過去の悪友とは縁を切ること、(5)当分の間伊丹(現住居)から離れて生活することの五項目を遵守事項として命じて、試験観察に付して、身柄を両親に引取らせたのであるが、しばらく近所の工務店の下請で働いたのみで、以後は遵守事項の殆ど全てに違反し、試験観察決定後一か月足らずで家出し、同時に離職し、以後友人の家・深夜喫茶店・終夜営業のゲームセンターなどで仮泊を続け、引致状を執行されたころと同様の徒遊生活に陥入り、その挙句、金銭に窮して非行事実欄第3の窃盗その他の車上狙を犯したものである。

3  養父が病に倒れたため、両親とも少年を労働力として期待し、再度の引取りを希望しているが、少年を現状のままで帰宅させれば、事態の繰り返しに終るのは必至であり、今回は施設に収容して矯正教育を施すほかないものと考える。

以上のとおりであり、少年を中等少年院に送致することとするが、近畿地方更生保護委員会からの本件戻し収容の申請は少年を少年院に送致する以上結局その必要性を欠くことになるので、却下することとし、少年法二四条一項三号・少年審判規則三七条一項、犯罪者予防更生法四三条一項・少年院法一一条三項・少年審判規則五五条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 田中明生)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例